東京高等裁判所 平成10年(行コ)48号 判決 1998年7月29日
東京都板橋区幸町五八番八号
控訴人
関口みど里
千葉県市川市八幡六丁目二五番五号
控訴人
熊木武夫
千葉県成田市橋賀台二丁目六番一号
控訴人
野田みち子
東京都北区中里町二丁目二八番三号
控訴人
熊木義和
控訴人四名訴訟代理人弁護士
大久保和明
同
高木太郎
東京都中央区新富二丁目六番一号
被控訴人
京橋税務署長 受川正
右指定代理人
森悦子
同
松原行宏
同
横尾輝男
同
南幸四郎
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 控訴人らが平成四年一二月九日相続開始(被相続人熊木シゲ)に係る相続税についてした更正の請求に対し、被控訴人が平成六年二月二八日付けでした各更正処分(ただし、平成七年一一月二八日付けないし同年一二月五日付けでされた各更正処分により減額された後のもの)のうち、各控訴人について次の納付すべき税額を超える部分をいずれも取り消す。
控訴人関口みど里 八三万一三〇〇円
控訴人熊木武夫 八九万五三〇〇円
控訴人野田みち子 七六万七四〇〇円
控訴人熊木義和 七六万七四〇〇円
3 訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二事案の概要
本件の事案の概要は、原判決書「事実及び理由」の「第二 事案の概要」(原判決書四頁七行目から三三頁九行目まで。別紙物件目録、別表一ないし三、別表4ないし9を含む。)記載のとおりであるから、これを引用する。
第三当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないと判断する。
その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決書の「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」(原判決書三三頁一〇行目から五三頁四行目まで。別表10を含む。)記載のとおりであるから、これを引用する。
(判断の付加)
控訴人らは、路線価は当年一月一日を基準として評定されるものであり、それが相続税法二二条に定める当年一月一日時点での「時価」として扱われるべきであるところ、平成四年の場合には地価が一貫して下落傾向にあり、このような場合には平成四年一月二日から一二月三一日までに開始した相続に係る相続不動産の評価については当然に路線価の時点修正を行った事による評価(具体的には、当年の路線価-(当年の路線価-翌年の路線価)×当年一月一日から相続開始までの経過日数÷三六五日の算式で計算。)が行われるべきである旨主張する。
弁論の全趣旨によれば、財産評価基本通達1の(2)では、「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日をいう。)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立するものと認められる価額をいい、その額は、この通達の定めによって評価した価額による。」として相続税の財産評価の方式の一つとして前記の路線価方式を採用し、これにより毎年一月一日を価格時点として評価した価額を課税実務上時価として取り扱っていることが認められる。もっとも、路線価は、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減などの観点から、相続財産の評価を画一的に行うべく、国税庁長官が各国税局長あてに発した財産評価基本通達に基づき、各国税局長が各路線に面する標準的な画地一平方メートル当たりの価額を評定したものであって、納税者の利益や評価上の安全性などの考慮からこらが一年間適用されることを予定して、平成四年分及び五年分については、公示価格水準の八〇パーセント程度により評定されていることが認められ、これからすれば、路線価は、課税実務の上で相続財産評価のための内部的な統一的処理基準としての意義を有するにとどまり、それ自体は相続税法二二条の意味するところの時価すなわち客観的交換価値を直ちに示すものとはいえないというべきである。そして、公平な税負担と租税行政の効率性の確保の観点からは、課税実務上、相続財産の評価について右のような画一的、統一的評価方法を採用することを法は許容しているものと解される。
ところで、相続税の課税評価の適否は、結局のところ、本件課税処分等において認定した相続財産の価額が相続開始時の客観的な交換価値を超えていないかどうかに係るものであり、公平な税負担と租税行政の効率性の確保の観点から、当年一月一日から一二月三一日までに生じた相続のすべてについて、相続財産の時価評価に当たり、原則として前記のような観点から当年一月一日を基準として一年間適用されることを予定して評定された当年路線価のみを行い、翌年の路線価との差を考慮した時点修正を行わないとしても、当年路線価を基に評価した評価額が相続開始時における相続財産の時価(客観的交換価値)を上回っているというような特別の事情が認められない限り、未だ課税実務上合理性を欠くということまでいえず、路線価の時点修正を行うべきであるとする控訴人らの見解は、相続財産の時価評価に関する課税実務の在り方に対する一個の見解であるといえるとしても、それ自体では本件課税処分等の違法性を基礎付けるものとはいえない。
そして、本件の場合に適用される路線価について平成四年の場合と平成五年の場合(基準日はいずれも一月一日)とを比較すると、後者が約二割前後下落していることは当事者間に争いがないが、平成四年の路線価に基づき評価した本件宅地の自用地としての評価額(四億一七四二万一八七〇円、一平方メートル当たり八七五万四二八二円)が相続開始時の時価を上回っていると認めるに足る証拠はなく、かえって乙一の1ないし3及び弁論の全趣旨によれば、本件相続開始時の本件宅地を含む地域においては路線価は時価に達していないことが推認され、他に本件において被控訴人がした本件宅地の評価が不適切で時価評価の原則を定めた相続税法二二条の規定に違反すると目すべき特段の事情を認めることができない。
第四結論
そうすると、控訴人等の被控訴人に対する請求を棄却した原判決は相当であって、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないから棄却し、控訴費用につき民事訴訟法六七条一項、六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。
(平成一〇年六月一〇日口頭弁論終結)
(裁判長裁判官 荒井史男 裁判官 大島崇志 裁判官 豊田建夫)